上縦隔へのリンパ節転移は喉頭癌では低率 (喉頭全摘例の5.1%) であったが, 下咽頭癌の頸部食道進展例, 頸部食道癌では非常に高率 (各々42.9%, 75.0%) であった。下咽頭癌では頸部食道への進展の有無が, 上縦隔郭清決定の一つの指標となり得ると思われた。当科での上縦隔郭清のアプローチ法は胸郭切除で行わない頸部からの方法を原則としており, 胸郭一部切除による方法は術前から明らかに上縦隔に転移リンパ節を認め切除が必要な場合か, 前縦隔気管孔を形成する必要がある場合に限っている。下咽頭癌の頸部食道進展例について, 胸郭切除を行わない頸部からの方法による郭清群と非郭清群での再発率は各々0%, 58.3%であり, この方法の妥当性が示唆された。胸郭切除による方法で前縦隔気管孔形成を行った9症例について, 気管孔形成における大血管 (とくに腕頭動脈) の保護, 気管の血流維持, 術前合併症の評価, 術後呼吸管理, 感染症などの問題点について述べた。また, 現状では生命予後には厳しい結果であった。