2017 年 38 巻 p. 67-74
【背景と目的】
家庭内での溺水・溺死の増加は著しい。この現象に関しては、出浴の際の姿勢変化に温熱刺激による皮膚血管拡張と水圧からの解放の影響が加わり、過剰な血圧低下が生じ、脳への血流が維持できなくなることが原因の一つと考えられている。しかしながら、具体的なエビデンスは不足している。本研究では、動脈スティフネス、動脈圧反射感受性、および下肢血管拡張能に注目し、入浴終了直後の立ちくらみの個人差を生む機序を明らかにすることを目的とした。
【方法】
成人男性13名(29~57歳)に5分間の温水浴(41度、腋窩水位)を行ってもらい、その前後で、心拍数、血圧、動脈圧反射感受性、動脈スティフネス、下肢血管抵抗を計測した。動脈圧反射感受性は、温水をためる前のバスタブ内での5分間の座位安静、および温水をためた状態での5分間の座位安静(入浴)の直後に、それぞれ起立動作を行い、その際の血圧低下に対する頻脈応答の直線回帰式の傾きから動脈圧反射感受性(baroreflex sensitivity [BRS])ゲインを算出した。
【結果と考察】
立位動作に伴う血圧低下には大きな個人差が認められ、血圧低下応答に入浴前後で有意な変化は生じなかった。入浴後に、BRSゲインは有意に増大し、動脈スティフネスおよび下肢血管抵抗は有意に減少した。入浴前において、起立動作に伴う平均動脈圧の低下応答の程度はBRSゲインと負の相関を示した(r=-0.736、P=0.006)が、入浴後にはこの相関関係が消失した。立位動作に伴う血圧低下の入浴前後での変化量は入浴前のBRSゲインと正相関する傾向にあった(r=0.531, P=0.076)。一方、ベースラインの動脈スティフネスおよび下肢血管拡張能の関与は示唆されなかった。
【結論】
短時間の温水浴の場合、出浴時の起立動作に伴う血圧低下に有意な変化は生じないが、動脈圧反射感受性がもともと低下している者では、大きな血圧低下を生じる可能性がある。