魚類学雑誌
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朝鮮近海に於けるキグチの産卵習性
矢部 博
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1951 年 1 巻 5 号 p. 285-291

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抄録

1.朝鮮の黄海側にはキグチ漁業で有名な漁場が3ケ所あり, (表1) 春期ここに廻游する魚群は産卵のために集るものと漁業者に信じられてゐる.
2.筆者は南部の漁場を調査して, 親魚から熟卵を得ると共に多数の天然に産卵された浮游卵を採集して (表3) 産卵の事實を確めた.
3.人工授精によつて仔魚を得た.卵は直径1.41~1.56mmの球形の分離性浮游卵で, 直樫0.47~0.53mmの油球1箇を有する.油球の色は親魚の個体により多少相違するが, 淡く桃色がかつてゐる.卵内発生中に胚体の心臓部, 第17番目筋節上, 油球の表面等には極めて特徴的な朱色の色素胞が発現する.
4.孵化直後の仔魚は体の全長3.3~3.5mmで, 黒色色素胞Dほか眼と耳胞の間, 第16~18番目の筋節上等に濃い朱色の色素胞が見られる.
5.孵化迄の所要時間は水温の管理が困難だつたため實験の結果は匠々で, 60時間 (水温13.1~20.7℃) 90時間 (11.8~19.℃), 82時間 (9.8~20.4℃) 等であつた.天然の産卵場は表面水温11~14.Cであるから孵化に5日以上を要するものと考へられる.
6.孕卵数は体長300mmの成魚で30.000~70.000, 350mmnで約100.000粒と推定される.
7.産卵期には成魚の体色は♂♀ともに平常よりは一段と鮮黄色となり, 産卵場では海上に跳躍するのが認められる.又大群を作り恰もchorusの様にrhythmicalにga: ga: と発音するのが船上にまでやかましい程大聲で聞える.
8.本篇は主として1938及び1941年の観察である.

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