1966 年 14 巻 1-3 号 p. 74-83_2
北海道千歳川で採卵授精のうえ空輸し, 江ノ島水族館で孵化させたサケ幼魚を冷却海水を用いて飼育したところ, その途上で多数の個体が斃死した。比較的後期まで生存しておったもののうち, 2尾 (AおよびB) には顕著な腫瘍が発生していたので, 剖検のうえ組織学的に観察し, 同時に該魚の主要内分泌腺も調べてみた。
両標本共, 下垂体の端葉軸部は酸好性細胞が優勢で, 生殖腺刺激細胞と目される塩基 (青色) 好性細胞はきわめて少ない。したがって, 大多数の卵巣卵はまだ卵黄形成がはじまっていなかった。頭部神経分泌細胞の分泌活動は低く, 神経葉への神経分泌物質の貯蔵量も少なかったが, 甲状腺も機能低下像を示している。なお, STANNIUS氏小体ならびにB標本の副腎皮質組織には, 異状がみられなかった。
A標本の頭腎は著しく膨化しており, 肉眼でも腫瘍発生の事実が明瞭に察知できる。これは, 多数のリンパ球の増殖と, 渦巻いた膠原線維ならびに細網線維からなり, また随所に壊死崩壊して漿液状となり, 小空洞化した傾向がうかがえた。
B標本の右体側後方には, 消化管を圧迫する一大膨化部があり, 側線直下の該部は変性壊死に基づく潰瘍が生じており, 内部が露出状態にあった。これは体幹筋肉間結合織に発生した小円形細胞肉腫であって, 腫瘍細胞は筋肉東中へあまねく侵入して結合織化を来たしている。腫瘍部の内部には一大空洞が形成されており, 変性壊死に陥入った組織が乳歴物として詰まっていた。