魚類学雑誌
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スズキ精巣の成熟過程について
林 勇夫
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1971 年 18 巻 1 号 p. 39-50

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抄録

1.1964年9月から1969年1月までの問に若狭湾産スズキ182個体の精巣の組織観察を行ない, 本種の精巣の形態, 精子細胞の成熟過程について研究を行なった.
2.本種の精巣は結合組織性の精巣縦隔とその中央部に位置する輸精小管から放射状に派出する細精管がその大部分を占める精巣実質部とからなり, 基本構造は他のほとんどの魚種と大差ない.
3.精子形成は細精管壁で行なわれる.精原細胞は4月から8月にかけて管内に現われ, 第2次精原細胞や第1次精母細胞がみられるのは10月で, 以後急速に成熟し, 11月中旬以後精子が出現する.これまで報告された他の魚種に比べて精子形成過程が著しく速やかに進行するのが本種の特徴であり, また成熟時期の個体変異はそれ程なく, ほぼ同時期に成熟に達する.
4.放精が終ると細精管壁に精上皮細胞層が顕著に発達し, 細精管内の残存精子細胞の崩壊, 吸収に関与する.その後次年度の精原細胞がこの上皮細胞から分化し, 残りの上皮細胞は精原細胞の周囲を取囲んで栄養細胞の機能をもつものと思われる.精上皮細胞は機能的には高等脊椎動物のSertoli細胞に相当する.
5.生殖腺指数の経月変化はよく成熟状態を反映しており, 成熟度判定に有効である.精巣実質部が最も充実する9月に最低値, 0.05-0.1%を示し, 第2次精原細胞が出現する時期に0.2%, 以後成熟とともに急激に値は高くなり, 放精直前の個体ではおおむね10%前後の高い値を示す.放精後値は急降して2%前後となり, 以後残存精子が吸収されるにともない漸減する.
6.若狭湾における本種の産卵期は12月下旬から1月中旬にかけてであり, 雄の成熟年令は満2年, 成熟体長は260mm前後である.また本種の季節的な成熟過程を大別すると次のようになる.
8月―12月下旬精子形成期
12月下旬―1月中旬精子放出期 (産卵期)
1月下旬―7月回復期および精子形成準備期

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