魚類学雑誌
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コチ科魚類における雌雄同体性と性転換現象-II.クモゴチおよびトカゲゴチの雄性先熟雌雄同体性
藤井 武人
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1971 年 18 巻 3 号 p. 109-117

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抄録
コチ科魚類の二種.クモゴチKumococius dertrususおよびトカゲゴチInegociajaponicaについて性転換現象の有無を調査した結果, 前者では全個体が, 後者では少なくとも50% (おそらく前者と同様に全個体が性転換するものと予測される) が機能の上では雄性先熟の性転換を行なっていることがわかった.雄性から雌性への性機能の転換にともなって, 生殖巣は, 前者では両性生殖巣から卵巣に, 後者では精巣から卵巣へと移行する.したがって前者では肉眼によって両性生殖巣を容易に見つけることができるのに対して, 後者では両性生殖巣は移行的なかたちで現われるので肉眼では精巣と識別するのはむずかしい.
このような両者の性転換様式の差異に着目して雌雄同体性の進化過程を考察し, 次のように結論した.性の転換が雄性先熟であることに種の繁殖上のいみがあると考えると, 性機能の変化に生殖巣がうまく対応しているトカゲゴチ型の方が雄相にある時に雌性の要素をもっているクモゴチ型よりも適応的であるといえる.したがって性転換の様式はクモゴチ型からトカゲゴチ型に進んだものであり, その過程は一個体の魚から雌雄両要素が分離する過程, すなわち雌雄同体的傾向の消失をいみするものである.またクモゴチ型が示すように, その両性生殖巣の形態的特徴と両性生殖巣の維持される期間が相当長いことから判断して, その先駆型として同時成熟の雌雄同体性がかって存在したにちがいない.
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