魚類学雑誌
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仔魚の消化系の構造と機能に関する研究―III.後期仔魚の消化系の発達
田中 克
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1971 年 18 巻 4 号 p. 164-174

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抄録

1.海産魚10種, 淡水産魚1種, 両側回遊魚2種の後期仔魚期における消化系の発達について比較検討した.
2.後期仔魚期に分化する形質としては前腸における両顎歯・咽頭歯・味蕾, 肝膵臓, 腸上皮の杯状細胞, 胃腺および幽門垂などである.
3.コイ科魚類では摂餌開始後の生長にともなう下咽頭歯の発達とともに咽頭背側の角質化層の肥厚が著しい.
4.肝膵臓は後期仔魚期の中期に形成され始める.その形成過程は機能上の特殊化をともなわないことを示唆している.
5.摂餌開始にともないすべての魚種の腸中部上皮層には空胞が, 腸後部上皮層にはエオシンに好染する好酸性顆粒が多数出現する.
6.胃腺は後期仔魚期の後期に分化する.この時期は体型の変化と尾鰭・臀鰭・背鰭の分化が生じる段階である.
7.胃腺の形成と前後して両顎には円錐状の顎歯が, 腸上皮層には杯状細胞が分化する.
8.幽門垂は胃腺の形成にひき続いて分化する.この時期は体型が整い (成魚の基本型に近づく), 各鰭の基本構造が完成する段階である.すなわち, これは仔魚から稚魚への移行期にあたる.
9.胃腺・幽門垂の形成による消化系の発達と外部諸構造の高度化は仔魚から稚魚への移行期に食性の転換や生活空間の変化を中心とする生活様式の新しい段階への移行が生じることを示唆している.

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