魚類学雑誌
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仔魚の消化系の構造と機能に関する研究-V.
後部腸管上皮層の変化と蛋白質の摂取
田中 克
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1972 年 19 巻 3 号 p. 172-180

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抄録

硬骨魚類22種の後期仔魚について摂餌にともなう後部腸管の上皮層の変化を比較検討するとともに蛋白質の消化や摂取について考察した.
後期仔魚の腸管は仔魚前期の後半に形成される収縮部の存在によって前中部と後部が区分され, 後者の上皮層の上部には摂餌にともないエオシンに好染する顆粒が多数出現する.顆粒の大きさは魚種によって異なるが, 通常1~6μで, サヨリやトラフグでは10μに達する場合がある.好酸性顆粒の出現は活発に摂餌している仔魚ほど, また粘膜のひだの頂部に近い部分ほど顕著である.後部腸管の粘膜は魚種によっては前部や中部腸管の米占膜とは異なり絨毛様の突起を形成する.
好酸性顆粒の出現と摂餌との関係や出現部位の構造はこれらの顆粒が腸管内腔からの物質の摂取と関連していることを示している.これらの顆粒は飼育条件下の仔魚だけでなく, 天然で採集した仔魚にも同様に認められる.これらの顆粒はチロシン残基のフェノール基, トリプトファン残基のインドール基およびアルギニン残基のグアニジル基を検出する組織化学諸反応に陽性を示し.蛋白質あるいは蛋白質性の物質と考えられる.これらの顆粒は哺乳類新生児の初乳授乳中にみられる小腸上皮の蛋白顆粒と形態や染色性が類似し, 蛋白質が高分子状態で摂取された結果生じたものと考えられる.
胃腺が機能的になり幽門垂が分化し始める仔魚から稚魚への移行期にこれらの顆粒は染色性が低下し, しだいに認められなぐなる.仔魚期における蛋白質の高分子状態での摂取は仔魚の消化系の発達段階を反映したものであり, 胃腺や幽門垂が分化し消化系が成魚的段階に達するとともに消化や摂取の機構が変化する結果顆粒が認められなぐなるものと考えられる.後期仔魚の前部や中部腸管上皮層が多量の脂肪粒子で満たされる事実や仔魚が摂餌した餌をすみやかに腸後方へ輸送し, かなり短時間に排泄する事実は, 後部腸管における高分子状態での摂取機構が仔魚期の蛋白質の摂取に占める役割のかなり高いことを示している.
無脊椎動物の下等なグループでかなり一般的に認められる細胞内消化が硬骨魚類の仔魚期に認められる事実は仔魚の消化や摂取の機構の特異性を示すとともに動物の消化系発達過程の歴史性を反映したものと考えられる.

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