魚類学雑誌
Online ISSN : 1884-7374
Print ISSN : 0021-5090
ISSN-L : 0021-5090
コチ科魚類における雌雄同体性と性転換現象―III.種的分化と性転換様式の変異
藤井 武人
著者情報
ジャーナル フリー

1974 年 21 巻 2 号 p. 92-100

詳細
抄録

コチ科魚類の雌雄性は, 雄性先熟の性転換に伴う生殖巣の形態変化の様式によって, 雌雄同体性から異体性への移行傾向が認められている.ここではMatsubara and Ochiai (1955) による本科魚類の系統, 類縁関係を再検討し, 雌雄同体性の減衰過程が種的分化と対応していることをあきらかにした.
本科魚類の種的分化の過程では, アネサゴチ亜科類を派生した特殊化の方向と, トカゲゴチ亜科類や, コチ亜科類を生じた発展的方向が認められ, トカゲゴチ亜科のクモゴチ属が分化の中心的位置にあると考えられる.雌雄同体的性格は, 生活型に祖先のなごりを多く残していると思われるクモゴチ属において最も強く, それから縁遠い種ほど弱くなっている.このことから, さかのぼってコチ科魚類の遊泳型の祖先は, 強い雌雄同体的性質を有するところの同時成熟型の雌雄同体であったと推定される.
雌雄同体種が多数知られているスズキ科やタイ科のような分類群とコチ科にみられる、典型的な両性生殖巣の形態は, 同時成熟型のものであり, その本質的な相違は構造的に卵巣部分と精巣部分の独立性が強くなっている点にある.これはかつて雌雄同体性がこれらの祖先の雌雄性において優勢であった時代に, 同時成熟雌雄同体性の生殖機能の前進があったことを意味するものであろう.
これら3科にみられる雌雄同体性の減衰過程は, 雌雄異体から同体への移行の後に生じた二次的な過程ではなく, 雌雄同体性が魚類の本来の雌雄性であり, 少なくとも3科の魚類の雌雄性は雌雄同体性の共通根を有するものと考えられる.

著者関連情報
© 日本魚類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top