本邦産のマハゼAcanthogobius flavimanusに次白色瘤状の腫瘍が屡々発生している事は宮崎 (1940) も既に報告しており、東京湾に於ては例年多数の罹患魚が釣獲されている。その原因に就いては未だ何も知られていない。ヨーロツパ産のハゼ科魚類Gobius blennioides, G.nigro-notatusの二種に於けるこの種の腫瘍に就いてはANITSCHKOW & POWLOWSKY (1923) が報告しており、組織学的観察から本邦産マハゼのそれと同一のものと思われる。
体各部に発生したこの腫瘍に依つてその部分の組織中に存在する鱗が何等かの影響を受けるであろう事は、高等脊椎動物に於て腫瘍による骨質の変形する現象から考えて当然考えられるところであるが、やはり硬組織の一種としての鱗の性質を知る為に幾らかの知識を与えるかも知れないと考えて二三の観察を試みたので、その所見を述べる。
尚、本稿の御校閲を賜つた東京大学教授檜山義夫博士及び供試材料に便宜を与えられた大学院学生〓東煥氏に深謝する。