ドジョウ科シマドジョウ亜科 (Cobitidinae) のシマドジョウCobitis biwaeについて, 分布域のほぼ全域から多数の材料を集めて核型分析を行なった。本種は染色体数から主として48を数える2倍性種族 (異数性の2n=46, 49, 50の少数個体を含む) と, 96を数える倍数性種族とに大別された。倍数性種族の地理的分布は本州。四国の瀬戸内海斜面地域に局限され, これらを取り囲むように他の地域を2倍性種族が占めていた。上野ほか (1980) が述べているように, 両種族間には地理的隔離がほぼ完全に成立していた。これら核学的種族の分布を概観すると, (1) シマドジョウの倍数化は現在の瀬戸内海の位置にかつて存在した大淡水域 (河川または湖沼) で起こり, (2) 日本海側の若狭湾流入河川や江川・高津川における倍数性種族の局所的な分布は, 分水界を接する河川の流路変更 (争奪あるいは盗流) に伴う瀬戸内海側からの浸潤によるものと推定された。