魚類学雑誌
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スチールヘッド・トラウトとカムチャツカン・トラウトにおける遺伝的分化とその動物地理学的関連
岡崎 登志夫
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1984 年 31 巻 3 号 p. 297-311

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抄録

北米大陸西岸の諸河川に広く分布するスチールヘッド・トラウトとこれに極めて近縁でカムチャツカ半島を中心とした地域に分布するカムチャツカン・トラウトは別種として位置づけられてきたが, 外部形態や核型分析等を含めても両種を明確に分かつ形質は特に認められておらず, その異同には異論があった.
本報告ではアイソザイムを用い, 両種の遺伝的分化及び異同について検討した. さらに, 対立遺伝子度数の差異から推定された分化年代を基に, 両種の最終氷期における避難場所及び後氷期の分散経路についても検討を加えた. 遺伝的な類縁性を示す指標である遺伝的距離からは, 北米大陸のカスケード山脈より西側の海岸寄に分布するスチールヘッドは同山脈より東側の内陸寄に分布するスチールヘッドよりもむしろカムチャッカン・トラウトに近似性を示すことが明らかになった.また, カムチャツカン・トラウトと海岸寄に分布するスチールヘッドは氷期中に存在していたべ一リング陸橋南縁からカムチャツカ半島にかけての地域を, また内陸寄のスチールヘッドは北米の大陸氷床の南側の地域を, 氷期中のそれぞれの避難場所としていたものと考えられた.後氷期におけるベーリング陸橋の開裂に伴い前者は東西に分割され, 東よりの集団は北米大陸の沿岸伝いに分布を広げたのに対し, 西よりの集団は氷期後も分布域を大きく広げることはなく, カムチャツカ半島を中心とした地域に留ったものと推定された.一方, 後者の分布域は氷期後にも大きな変化はなく, 内陸の地域に留ったものと考えられた.
この結果, スチールヘッド・トラウトとカムチャッカン・トラウトは同種として位置づけることが妥当と判断された.

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