魚類学雑誌
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大当別川におけるカンキョウカジカの河川内移動と個体数
後藤 晃
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1986 年 32 巻 4 号 p. 421-430

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抄録

北海道南部の大当別川において, 河口から上流約4km地点までの流域にほぼ等間隔に5っの調査区域 (1~V) を設けた.各区域で採集されたカンキョウカジカの成魚 (体長50mm以上) に個体識別マークを施し, mark-recapture法によって, 河川内移動, homerange, 流程に沿った個体群密度の変化について調査した.非繁殖期において, 生息密度, 体長組成及び性比に流程に沿った傾斜が認められた.つまり, 生息密度は, 最下流域の区域1で最も高く (3.45尾/m2), 上流に向うにつれて低くなる.大型の雄は下流域に多く, 上流に向うにつれて減少する.また, 性比 (♂: ♀) は区域1では約1: 3であり, 上流に向うにつれて雌の比率がより高くなる.この時期には, 各個体の生息場所は安定しており, そのhomerangeは流程で平均40.6mであった.一方, 繁殖期には, 教kmに及ぶ河川内での移動が認められた.つまり, 繁殖期前期には, 上流域に生息していた個体が下流方向に, また, 繁殖終了期には, 下流から上流方向に移動が起こる.この繁殖期にみられる移動は産卵回遊の一形態とみなされ, 本種の両側回遊性の生活環, 個体群構造の特徴及び一夫多妻的婚姻システムからみて, 適応的な行動習性であると考えられる.

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