魚類学雑誌
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モツゴの精巣の付属腔の出現とその幼時間性現象との関連
高橋 裕哉前野 幸男
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1986 年 33 巻 2 号 p. 180-185

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抄録

モツゴの成魚の精巣には, その背側から正中側にかけて, 体腔壁との間に扁平な腔所が付属するのがみられる.この腔所 (testicular cavity) は精巣の全長にわたって存在し, 後方では主輸精管合一部の背側で左右が同様に合一し, さらに後方の総輸精管に接して盲端をもつ.このtesticular cavity内には液性ないし細胞性の内容物がみられることがあり, また時には少数の精子の混入もあるが, モツゴのtesticular cavityは輸精管系とは全く別個の存在である.精巣成熟時には, testicular cavityの背側の上皮細胞が顕著な肥厚と線毛形成をみせるが, この変化は, 成熟雌魚の卵巣腔上皮にみられる形態変化と一致する
モツゴ稚魚の将来の精巣では, 卵巣分化の開始にかなり遅れて, ふ化後37-53日に一部の生殖細胞が卵子形成過程に入り, やや不明確な幼時間性現象を示す.またそれと同時に生殖腺腹縁と体腔側壁との接着によって, 体腔の一部をとりこんだ形式の腔所, すなわちtesticular cavityが形成される。この形成様式は卵巣腔形成の様式と全く同様である.
すなわち, モツゴ成魚の精巣に付属するtesticular cavityは幼時間性現象の所産が精巣発達の過程で痕跡化ないし消失することなく残存するに至ったもので, おそらく精巣活動に関する機能を有しないものと思われる。

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