魚類学雑誌
Online ISSN : 1884-7374
Print ISSN : 0021-5090
ISSN-L : 0021-5090
イトヨの降海型と陸封型間の雑種不妊精巣に関する電子顕微鏡的観察
本間 義治千葉 晃田村 栄光
著者情報
ジャーナル フリー

1986 年 33 巻 3 号 p. 262-268

詳細
抄録

イトヨの降海型 (M) と陸封型 (L) の交雑を試みたところ, M♀とL♂との組合せでは雑種個体 (F1) の雄が不妊となった.光学顕微鏡で観察したところ, 大食細胞の活動によるらしいことがわかった (Honma and Tamura, 1984).F2は得られず, 4組の戻し交雑のうちM♀とLM♂の組合せのみ親魚にまで発育したが, これも雄は不妊となった.そこで, 不妊の過程と原因を明らかにするため, 走査並びに透過電子顕微鏡によって検索してみた.正常の降海型雄親魚では, 多数の精子細胞がセルトリ (支持) 細胞の突起によって包まれ, 精子に変態していく過程がみられた.一方, 不妊雄 (MLとMOLM) では多数の大食細胞が出現して, 精子細胞を貪食し活発に処理しているのが観察された.さらに, セルトリ細胞も盛んに精子細胞を捕食していた.これらの食作用により, 雑種の精巣の精細管は精子が形成されないで空虚化してしまう.雑種不妊による隔離機構に加え, 両型間の遺伝的距離も離れていることがわかったので (谷口・本間・川真田, 1985), 現在では両型はそれぞれ独立した種であると見なしてよい.

著者関連情報
© 日本魚類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top