魚類学雑誌
Online ISSN : 1884-7374
Print ISSN : 0021-5090
ISSN-L : 0021-5090
水槽内におけるニジカジカの産卵と交尾行動
宗原 弘幸
著者情報
ジャーナル フリー

1988 年 35 巻 3 号 p. 358-364

詳細
抄録

水槽内でニジカジカの繁殖行動を観察した.本種の1回の繁殖行動は, 産卵と交尾からなる.雄は雌を発見するとすべての鰭を広げ, 一連の求愛行動を行なう.初め, 雌は雄の求愛を無視しているが, 排卵状態にある時は, 最終的に求愛に応じ, 産卵とそれに続いて交尾が行なわれる.産卵直前になると, 雌は胸鰭と尾部および臀鰭で産卵床を掃き, 数回深呼吸の後, 尾部を幾分上方に反らせた姿勢で一気に数千粒の卵を産む.雄は産卵するまで, 雌の周りを側面誇示しながら旋回遊泳したり, 時には咬みっいたりするが, 産卵前に交尾することはなかった.産卵後, 雌は産卵前と類似した行動で尾部と臀鰭により, 卵を薄層状に広げて水槽底面に付着させる.卵塊を薄層状にすることは, 発生過程で卵に対する酸素供給を容易にするものと推察された.交尾は雌のこの行動の間に繰り返され, その際, 精液がペニスあるいは雌の生殖口から漏れ出るのが観察された.実験前まで交尾経験のなかった雌の産出卵は, この漏出した精子によって, 体外で受精する.卵塊を広げ終えると, 雌は産卵場所を去り1回の繁殖行動が終了する.通常, 雄は卵の近傍で過ごすが, ファニング等の保護行動は観察されなかった.また, 産卵期間中, 雌の生殖口周辺から臀鰭両側の基部にかけて, 皮下に漿液が貯留し水腫状を呈する.この水腫様の膨隆部は柔らかく, それ故, 卵塊を薄層化する際, 卵が潰されないように機能すると推察された.

著者関連情報
© 日本魚類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top