水槽内でニジカジカの繁殖行動を観察した.本種の1回の繁殖行動は, 産卵と交尾からなる.雄は雌を発見するとすべての鰭を広げ, 一連の求愛行動を行なう.初め, 雌は雄の求愛を無視しているが, 排卵状態にある時は, 最終的に求愛に応じ, 産卵とそれに続いて交尾が行なわれる.産卵直前になると, 雌は胸鰭と尾部および臀鰭で産卵床を掃き, 数回深呼吸の後, 尾部を幾分上方に反らせた姿勢で一気に数千粒の卵を産む.雄は産卵するまで, 雌の周りを側面誇示しながら旋回遊泳したり, 時には咬みっいたりするが, 産卵前に交尾することはなかった.産卵後, 雌は産卵前と類似した行動で尾部と臀鰭により, 卵を薄層状に広げて水槽底面に付着させる.卵塊を薄層状にすることは, 発生過程で卵に対する酸素供給を容易にするものと推察された.交尾は雌のこの行動の間に繰り返され, その際, 精液がペニスあるいは雌の生殖口から漏れ出るのが観察された.実験前まで交尾経験のなかった雌の産出卵は, この漏出した精子によって, 体外で受精する.卵塊を広げ終えると, 雌は産卵場所を去り1回の繁殖行動が終了する.通常, 雄は卵の近傍で過ごすが, ファニング等の保護行動は観察されなかった.また, 産卵期間中, 雌の生殖口周辺から臀鰭両側の基部にかけて, 皮下に漿液が貯留し水腫状を呈する.この水腫様の膨隆部は柔らかく, それ故, 卵塊を薄層化する際, 卵が潰されないように機能すると推察された.