日本産イトヨの淡水型の起源を解明するため, 北日本を中心とする各地の淡水型および遡河型集団から採集した標本を用いて電気泳動法によりアイソザイム遺伝標識を検出し, 集団間の遺伝的距離を推定した.淡水型と遡河型集団間の遺伝的距離の平均値は0.6746と顕著に大きく, この値は海産魚や淡水魚の同属内種間の遺伝的分化の平均的レベルに匹適した.一方, それぞれの型内での集団間の遺伝的距離の平均値は0.0006-0.0015と著しく小さかった.淡水型と遡河型集団間の遺伝的距離にもとづき推定された進化時間はおよそ340万年と極めて長く, 淡水型集団が遡河型集団から隔離された時代は最後の氷河期より遙か以前であって, 両集団が顕著な遺伝的分化を遂げた後, 現在のような分布状態に致ったことが示唆された.