魚類学雑誌
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イソバテングによる産卵床としてのカイメンの利用および生態的利点
宗原 弘幸
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1991 年 38 巻 2 号 p. 179-184

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抄録

イソバテングの産卵床を明らかにした.イソバテングの産卵場から11種類の付着性無脊椎動物を採集し, イソバテング卵の有無を調べた.その結果, 本種の卵はカイメンの1種Mycaleadhaerensから見い出された.卵はカイメン組織内に完全に埋め込まれており, カイメンの骨格が卵の存在により部分的に損傷していた.イソバテングが産卵床としてM.adhaerensだけを利用する理由は, 魚が卵をカイメン組織内に押し込むことが可能なほどカイメン組織が柔かく, かっ十分な厚みを持っているたあと推察された.このようなイソバテングの産卵習性は, 本種の親魚が卵を保護しないことから, 第一に卵の被食が回避されること, 第二に胚への酸素供給が保証されること, 第三に死卵に発生するバクテリアの繁殖を妨げることなどの利点があるものと推察された.イソバテングによるカイメンの利用の仕方は, 本種が“無脊椎動物への卵寄託者 (spawner in invertebrates) ”であることを示している.

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© 日本魚類学会
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