魚類学雑誌
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表現型的可塑性としてのカンキョウカジカにおける流程に沿った生活史変異
後藤 晃
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1993 年 39 巻 4 号 p. 363-370

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抄録

両側回遊性の生活環を送るカンキョウカジカ個体群には, その遡トを妨げる障害物のない河川では, 流程に沿って個体群密度, 性比, 齢構成に傾斜的変化が存在し, 各ハビタート集団間に顕著な生活史変異が認められた.一方, 下流域に遡上を妨げる堰堤のある河川では, その流程に沿った各ハビタート集団は高い個体群密度, 類似した個体群構造をもち, 集団間にはほとんど生活史変異が観察されなかった.本種の未成熟雄1年魚を8月から12月までの期間, 単独, 低密度および高密度条件下で水槽飼育した結果, 低密度条件下で飼育された個体は高密度飼育個体と比較して, 性成熟が遅滞することを示した.また, 単独飼育条件では, その中の大型に成長した個体は性成熟に達することが認められた.以上の野外観察と飼育実験結果から, カンキョウカジカの個体群内に出現する生活史変異は, 遺伝子型の違いによってではなく, 生息環境条件に対する各個体の反応としての表現型的可塑性によって起因すること, およびその環境要因としては各生息場所での個体群密度の違いが重要であることが示唆された.そして, このような個体発生軌道における可塑性が, 河川の流程に沿った異質な環境下に生息する本種個体群にとって, どのような適応的意味を持つのかについて考察した.

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