1993 年 40 巻 2 号 p. 173-182
タンガニイカ湖に生息し、小えびを専食するカワスズメ科の口内保育魚Gnathochromis pfefferiのなわばり行動, 摂餌習性, および繁殖行動を個体識別して調査した.雌の摂餌範囲は互いに重なっていたが, 雄は重ならない摂餌なわばりを持っていた.繁殖なわばりは水草場とその周辺に集合して作られ, 雄はそこで午前中雌を求めて活発に泳ぎ回った.雄は午後には, 摂餌なわばりに戻った.繁殖なわばりと摂餌なわばりは隣接している場合もあれば, 100m以上はなれている場合もあった.本種の繁殖形態は, 繁殖なわばりを作る他の多くの口内保育をするカワスズメ科魚類のそれとにているが, 産卵のための巣を作らないという点で異なっていた.それぞれの雄は, 競争があるにもかかわらず, 数カ月の間毎朝同じ繁殖なわばりに戻っていた.このことから, 所有者がいない時にもなわばりの所有権が競争相手から認められていることが示唆された.