1993 年 40 巻 2 号 p. 209-218
タンガニイカ湖において水草地帯に生息し, 雌が口内保育をするカワスズメ科魚類Ctenochromis horeiの社会構造を婚姻形態を中心に調査した.調査した15m×9mの水草のパッチには, ほぼ同数の雌雄が60から70尾生息し, ほとんどの個体が3ヵ月以上そこに滞在した.彼らはそのパッチで摂餌し, 産卵し, 子育てをした.彼らの行動圏はよく重なり, 彼らはよく群れをなして摂餌した.攻撃行動と回避行動から, 大きい雄の間でほぼ体の大きさに一致した優位性が認められ, 観察された繁殖全てに最優位の雄がかかわっていた.スニーキングのような行動も観察された.産卵日の朝, 最優位雄は, 産卵の始まる前から終わるまで数時間, 雌を追尾し, 他の雄から守ることによって独占的に繁殖しようとした.6ヵ月の調査期間中に最優位雄の交代が2度起こった.このような一夫多妻的な婚姻形態は, 口内保育をするカワスズメ科魚類では初めての報告であり, 本種に特有な空間利用の仕方が他の種と異なる婚姻形態を持っ原因であると推察された.