魚類学雑誌
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スジアイナメにおける卵接着物質の形成
古屋 康則宗原 弘幸高野 和則
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1995 年 42 巻 1 号 p. 45-52

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抄録

沈性粘着卵を産むスジアイナメ (Hexagrammos octogrammus) の卵膜表面に存在する接着物質の起源と形成過程を明らかにするため, 卵膜の形成過程を電子顕微鏡で観察した.形成中の卵膜は構造の違いから3層 (外側からZ1, Z2, Z3) に識別できた.Z1およびZ2は前卵黄形成期に出現した.Z2は電子密度の高い物質として卵原形質表面に最初に沈着し, その後Z2と顆粒膜細胞との間隙に電子密度の低いZ1が蓄積された.前卵黄形成期の顆粒膜細胞内には粗面小胞体とゴルジ装置が発達し, さらに, 数多くの小胞がZ1に向かって開口していた.このことは, Z1の構成成分が顆粒膜細胞で合成, 分泌されることを示唆している.一方, 卵母細胞ではZ2の構成成分と考えられる物質を含んだ小胞が, 細胞表面に向かって開口していた.卵黄形成期になるとZ2の形成は終了し, その内側にZ2より電子密度がやや低いZ3が出現した.この時期の卵母細胞では, Z3の構成成分と考えられる物質を含む小胞が細胞表面に向かって開口していた.Z1の蓄積は卵黄形成期中も徐々に進行したが, 排卵前には著しい構造の変化が認められた.Z1構成成分の大部分は拡張した顆粒膜細胞の細胞間隙に拡散し, わずかに残ったZ1成分が微細な羽毛状の構造となってZ2の外側に沈着した.排卵された卵では, この羽毛状構造の外側に透明層が出現した.この透明層は, 排卵前に拡散したZ1成分が網目状に凝集し, 卵巣腔液を吸収して膨潤した結果できたものと思われる.海水に浸漬後に接着した卵では, 透明層が消失し, 露出した羽毛状構造が直接卵どうしを接着させていた.以上の結果は, 前卵黄形成期から卵黄形成期を通じて, 卵膜の外側に蓄積された顆粒膜細胞由来の物質の一部が, 排卵時に卵膜表面に沈着して, 卵接着物質として機能することを示唆している.

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