魚類学雑誌
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ニシン卵の受精の研究
VIII.未熟卵の受精反応について
柳町 隆造
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1958 年 7 巻 2-4 号 p. 61-66

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抄録

1) 第I成熟分裂を行ないつつある卵はまだ濾胞上皮に包まれている。このような卵を濾胞上皮からとり出し海水或は等調リンゲル液中で媒精してみると1個の卵も受精されない。これはこれらの卵の卵門域にニシンの受精に不可欠な精子付活要因がまだ現われていない為である。
2) 卵巣内の卵は第II成熟分裂の中期で卵巣腔に出る。このような卵の卵門域には精子付活要因が現われている。従つて媒精の際, 精子はこれらの卵門域で強く付活される。
卵巣腔に入つて間もないと思われる卵を海水又は等調リンゲル液中で媒精してみると, あるもの (約25%) は完熟卵と同様に受精反応を起し発生するが, 多数のもの (約75%) は精子を単精的に表層原形質内に受け入れているにかかわらず受精反応を全く起せないでいる。硝子針で刺傷すると, これらの卵は直ちに受精反応を起し (付活し), その後の発生は正常に進む。即ち, 卵巣腔に出て間もないと思われる卵の大部分に於ては, 精子を受け入れる機構が出来上っているにかかわらず発生を開始することが出来ない。これは卵の細胞質がまだ生理的に完熟していない為に被刺戟性の閾値が低い, 或は細胞質内に発生開始に必要なものが欠けているか又は発生開始を阻害するものがあつて, これが硝子針による刺傷によつて生産若しくは除去される為と考えられる。

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