黒毛和種牛の肥育後期における第一胃液の性状,液相・固相の細菌叢構成と枝肉成績との関係を明らかにする目的で,第一胃液のpH,揮発性低級脂肪酸(VFA),アンモニア態窒素(NH₃-N),乳酸(LA),リポポリサッカライド(LPS)および液相と固相の細菌叢構成を解析し,肥育および枝肉成績との関係を検討した.第一胃フィステルを装着した黒毛和種去勢牛9 頭を供試し,第一胃液pH は無線伝送式pH センサを用いて測定した.29 カ月齢時に第一胃内容を採取し,二重滅菌ガーゼを用いて液状部(液相)と食渣部(固相)に区分した.液相の各種性状のほか,液相と固相の細菌叢構成を次世代シークエンス法により解析した.また,屠殺解体(平均30.5 カ月齢)後,胸最長筋内脂肪を採取し,ガスクロマトグラフ法により脂肪酸組成を測定した.
その結果,第一胃液pH は平均5.67 と低値を示し,LPS 活性値は平均6.62 × 104 EU/mℓと高値を示した.細菌叢構成では,液相と固相のいずれもFirmicutes 門,Bacteroidetes 門およびActinobacteria 門の構成比が高かった.種レベルではLactonifacter longoviformis とOlsenella umbonata の構成比が高く,固相では液相に比べて,Succiniclasticum ruminis とMogibacterium neglectum の構成比が高値を示した.脂肪酸組成はC18:1,C16:0,C18:0,C16:1 の順に多く,一価不飽和脂肪酸(MUFA)は57.46 %,多価不飽和脂肪酸(PUFA)は2.22 %,飽和脂肪酸(SFA)は40.32 % であった.第一胃液pHとC16:1およびC18:1組成比との間に有意な正の相関が認められ,高MUFA群では低MUFA 群に比べて第一胃液pH が高値で推移する傾向がみられた.
以上のことから,黒毛和種去勢牛の肥育後期における第一胃細菌叢構成は,液相と固相で差異があり,また,固相の細菌叢構成は液相に比べて筋肉内脂肪中MUFA 組成や皮下脂肪厚との間で有意な相関が多いことが示唆された.