2011 年 11 巻 1 号 p. 58-67
法や法的判断が公正であることを確認するためには、個々人の公正さの感覚を知ることが必要となる。本稿は、法と心理の領域における公正概念についての議論に資することを目的とし、対人関係場面の公正判断の一つとして家族内役割分担の領域における公正研究を概観する。家族内役割分担研究は、家事と仕事の二重役割を担う女性が必ずしもその分担を不公正とみなさないことが報告されたことをきっかけに、公正概念にも目を向け始めた。量的偏りのある分担を不公正とはみなさない心理メカニズムを説明する概念として、Major (1993)は適格性の概念を提唱した。この概念は多くの研究者によって実証的に検討され、価値づけ、比較参照、正当化の過程が、適格性の感覚や公正さの判断と関連していることが明らかにされてきた。これらの研究知見は、家族内役割分担の公正も多元的であることを示している。また、家族内役割分担の公正がジェンダーや家族関係とも関連していることが、これまでの研究結果によって示唆されている。