法と心理
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被尋問者による応答が法廷証言において果たす役割 : 借用された言葉が及ぼす効果
渡辺 由希大橋 靖史
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ジャーナル オープンアクセス

2012 年 12 巻 1 号 p. 98-109

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抄録

目撃証言における尋問者と被尋問者のやり取りに関する従来の研究では、問いから応答の連鎖に関する研究が主に行われてきた。しかしながら、目撃証言は尋問者と被尋問者による協働的行為であり、問いから応答の連鎖に加え、応答から次の問いへの連鎖も存在する。本研究では、後者の応答から次の問いへの連鎖に着目し、被尋問者の特徴的な言い回しが尋問者の次の問いに与える影響について検討した。研究1では、被尋問者による目撃証言の信用性が裁判の争点の1つとなった刑事事件の公判廷速記録を資料にコミュニケーション分析を行った。分析の結果、本事例では、尋問者のClosed Question (CQ)に対して応答する際に、尋問者が問いに用いた言葉を被尋問者が借用するという特徴的な言い回しが見られた。そして、この'借用された言葉(Borrowed Words)'を含んだ応答に続く次の問いでは、尋問者による証言の確認の割合が、はい/いいえ応答に続く問いに比べ有意に少なく、話題内の展開の割合が有意に多かった。こうした特徴は、被尋問者の応答が内包する確信度や信頼度を、応答の聞き手である尋問者がいかに評価するかに関わっていることが考えられた。そこで研究2では、質問紙調査により、CQに対する被尋問者の'借用された言葉'とはい/いいえ応答が、聞き手による被尋問者の確信度の評価及び信頼度の評価に及ぼす影響について検証した。その結果、確信度の評価において'借用された言葉'を用いた方が、はい/いいえ応答より、有意に確信度の評価が高まった。

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© 2012 法と心理学会
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