2017 年 17 巻 1 号 p. 95-101
縊死偽装事例では、自殺と関連しやすい情報が含まれることにより、確証バイアスが生じ、死因 の鑑別を誤る可能性がある。特に、検視官と比較して、法医学の専門的な訓練を受けていない司法 警察員における確証バイアスの影響は大きい可能性がある。本研究では、過去の縊死偽装事例の分 析を行うことにより、心理学の領域でほとんど検討されていない、縊死偽装事例に関わった司法警 察員における確証バイアスの影響について、研究の手掛りとなる知見を提供することを目的とした。 テキストマイニング手法を援用し、縊死偽装事例 1 例の検視に関わった元検視官、元法医学者、元 司法警察員の出版された記録から、遺体の部位や状況、遺体に付随する物品に関する単語および熟 語(以下、遺体情報)を抽出し、χ 2 検定および残差分析を行った。分析の結果、他殺と鑑別した元検 視官、元法医学者と比較して、自殺と鑑別した元司法警察員は、着眼する遺体情報の種類が少なく、 索状物、頸部圧迫、体重といった縊死と関連する遺体情報に着眼していた。