2009 年 8 巻 1 号 p. 128-140
本研究では、裁判員と裁判官の間に観察される語彙的差異を、模擬裁判の評議における会話を電子テキスト化(コーパス化)し、そこから裁判員と裁判官の語彙(レジスター)の差異を統計的に抽出し、その結果から裁判員や裁判官の議論の特徴にまで考察を広げていく。特に、最高裁判所が裁判員制度の広報に用いている、「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します」というキャッチフレーズに謳われている「国民の健全な社会常識を一層反映させること」および「国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上」させることといった目標が、模擬裁判における評議においてどのように具現されているかを探る。本研究は、これまで我が国においては研究が比較的手薄であった裁判における言語使用に着目し、裁判員や裁判官の心理的側面の分析を言語学的な手法を援用して行っており、さらに裁判員という法律の素人による裁判における言語使用のデータを量的な観点から扱っている点において、おそらく我が国では初の試みになるであろうという点で法と言語学と心理学の学際的な研究として各分野の発展に寄与する。