2018 年 59 巻 3 号 p. 260-266
歩行機能と認知機能が保たれたまま,嚥下障害が進行した高齢患者を報告した.症例は3年半の間に3回入院し,その間に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の悪化に伴って嚥下障害は進行していった.COPDに起因する脊柱後弯症と上気道の炎症が嚥下障害を引き起こしたと考えた.嚥下障害の特徴として嚥下関連筋の筋力低下と感覚閾値の上昇が認められた.嚥下障害は進行性で不可逆的であった.症例は嚥下障害の自覚に乏しく,誤嚥性肺炎のリスクについての理解できなかった.歩行機能,認知機能が正常だったため,介護保険制度における介護度が重度にならなかったことも退院後の対応を困難にした.COPD患者にはしばしば多くの併存疾患が生じるが,嚥下障害もそれらの一つと考えられる.