2020 年 61 巻 2 号 p. 130-139
頭部外傷後にFoix-Chavany-Marie症候群を呈し,重度のdysarthriaをきたした症例の発話障害について検討した.症例は65歳右利き男性,右急性硬膜下血腫,左脳挫傷の診断で保存的治療を受けた.初診時,構音困難で,挺舌や頬を膨らますなど顔面の動きに対する命令には応じられなかった.一方,言語理解は良好で文レベルの口頭命令の理解と書字が可能であった.訓練経過とともに構音が徐々に可能となり,発話特徴として開鼻声,粗糙性嗄声および気息性嗄声を呈した.喉頭鏡検査における声帯の閉鎖は十分で,可動性は左右差なく良好であった.Foix-Chavany-Marie症候群の音声障害は痙性dysarthriaと類似した声質を呈するものの,その原因は声帯の筋緊張の異常とは異なる可能性が示唆された.また,本例の経過から,重度の発話障害と嚥下障害を呈しても発話障害が改善する症例の存在が示唆された.