変声を契機に声の高さは低下したが,粗糙性・気息性嗄声を長期間呈した症例を経験した.喉頭に器質的異常はないが,発声時スリット状の声門閉鎖不全と声門上部の過収縮を認めた.音声治療開始当初は半遮蔽声道エクササイズを用い,母音発声時嗄声は改善した.しかし,子音の構音操作や抑揚をつけると嗄声が再燃した.そのため,変声障害に用いるWeleminsky法と大声発声を併用したところ嗄声は消失した.
本症例は,変声を契機として喉頭筋の調節不良を生じ,筋緊張性発声障害をきたしたと推察される.つまり,声帯内転筋群に比して輪状甲状筋の緊張が強いため,スリット状の声門閉鎖不全を生じ,それを代償するため,声門上部が過剰に収縮し嗄声をきたしたと推察された.そのため,輪状甲状筋の筋緊張を緩和,かつ声帯内転筋群の働きを適度に促進して,声帯内転筋群と輪状甲状筋の筋緊張の不均衡を是正する音声治療が有効であると考えられた.