音声言語医学
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言語障害の疫学的研究
長沢 泰子
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1970 年 11 巻 1 号 p. 36-54

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抄録

東京都民生局厚生部企画課により, 昭和43年12月から昭和44年8月までにわたり, 心身障害者実態調査が行なわれた.この調査は, 調査票による基礎調査とこのスクリーニングにより選ばれたものを専門家が診断する専門調査の2部から成っている.
著者は言語障害の専門調査を委託されたのを機会に, 東京都における無作為抽出の標本のうちから調査票により言語障害を申告したもの144名について, その障害度を従来の基準に従って判定するとともに, 同調査において言語障害を申告しなかった心身障害申告者64名, 同調査以外から老人ホームの正常老人32名およびリハビリテーション病院で治療中の言語障害者23名を含めた計263名に言語検査を行なった.
その結果, 以下のことが判明した.
1.東京都全域における推定言語障害者は聴覚障害者を除き, 少なくとも約32, 059名である. (0.28%)
2.言語障害を申告したものの66.4%は20歳以上の成人であり, その男女比は約2.2: 1であった.
3.言語障害を申告したものの85%以上が重複障害者であったが, 合併した心身障害としては, 脳卒中後遺症 (44.3%) , 精神薄弱 (17.8%) , 脳性マヒ (15.7%) が主である.
4.言語障害のみを申告した19名のうち, 吃音が13名, 口蓋裂が4名, 構音障害と無喉頭者がそれぞれ1名であった.
5.言語障害を申告したもののうち71.5%が「音声機能障害または言語機能障害」により, 身体障害者福祉法に基づいた身体障害者手帳を受ける資格があると判定された.なお言語障害のみを申告した19名については, 資格ありとされたものは9名にすぎなかった.
6.言語障害を申告したもののうち, 重症言語障害は若年層に比較的高率に出現し, そのほとんどが, 精神薄弱または脳性マヒの重複障害者であった.
7.重複障害の場合, 言語障害の重症度と合併障害の重症度とが比較的高い相関をもつものとして, 精神薄弱および上肢機能障害が認められた.
8.本調査において使用した成人用選別検査法は, 平均得点においては言語障害群と非言語障害群をかなり明確に分離するが, 各群内の得点数の標準偏差はかなり大きい.正常者の標準値を基準とした言語検査方法を確立するためには, 今後の検討が必要と考えられる.

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© 日本音声言語医学会
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