抄録
1健忘失語例の語想起障害に対して, 認知心理学的観点から考察した結果, 以下の点が明らかになった.
1) 本症例は再生に著しい障害を示したが, 再認は全く障害されていない.これは言語情報の検索過程に限局した障害であり, 検索過程と再認過程を独立した別の過程であるとする二重過程説を支持していると考えた.
2) 語想起困難に陥った場合でもTOT現象が全く出現せず, 本症例の語想起困難時の検索は非常に低い検索レベルにとどまり, かつ部分的検索も行われていないことが明らかになった.
3) 「しんかんせ」のヒントで「新幹線」が想起できないことから, 本症例はひとつの単語をひとつのパターンとして記憶していると考えられた.
4) 手がかり効果がなかったことなどから, 本症例の語検索は自動的検索が主であり, 語想起困難に陥った場合の制御的検索は非常に困難であることが明らかになった.