音声言語医学
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失語症者のコミュニケーション障害
田中 美郷進藤 美津子橋本 佳子加我 君孝
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1990 年 31 巻 4 号 p. 404-411

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抄録

失語症者のコミュニケーション障害は2つの異なった側面から考察しうる.すなわち, ひとつは聴覚検査, 言語学的検査, 神経心理学的ならびに神経学的検査などの客観的テストによって評価できる障害であり, もうひとつはコミュニケーションの根本をなす心理学的ないし主観的側面である.
本研究では, 感覚性, 運動性ないし混合性失語症を有する43名の成人患者を対象にした.これらの患者は脳のCTまたはMRI, 純音聴力検査, 言葉の認知検査, トークンテスト, SLTAなどを受けた.また患者自身, その家族および言語治療士にはそれぞれの立場で, 失語症およびコミュニケーション障害の程度を本目的のために作成した評価尺度に基づいて評価してもらった.得られた結果は, (1) 失語症およびコミュニケーション障害の重症度の評価は3者それぞれかならずしも相関していなかった.一般に, 患者は自分の障害を重くみる傾向がみられた. (2) 患者の供述によると, コミュニケーション障害は緊張状態におかれるといっそう増強し, このような事態は言語治療の場合ですらも生じている.
本研究から得た結論は, コミュニケーションの芯をなすものは言語ではなく「こころ」であり, 言語はコミュニケーションの道具以外の何ものでもないということである.

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© 日本音声言語医学会
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