1991 年 32 巻 3 号 p. 318-332
舌・口底切除後に前腕皮弁で即時再建した10症例の構音動態をエレクトロパラトグラフィーを用いて観察し, 単純縫縮例9例と比較検討したところ次の結果を得た.
1) /t/音については硬口蓋上の閉鎖が認められる症例においてのみ高い発語明瞭度が得られたが, このパターンは前腕皮弁再建例に多く認められた.
2) /s/音については単純縫縮例, 前腕皮弁再建例ともに硬口蓋前方部での狭めを示す症例は少なかったが, 狭めの認められないパターンでも発語明瞭度は良好であった.
3) 健側と切除側の接触点数の時間的変化については, 単純縫縮例では相似型あるいは片側接触型が多かったのに対し, 前腕皮弁再建例では接触点数の変化に時間的なずれが認められる交差型が特徴的であった.
以上の結果から, 前腕皮弁は皮弁自体に運動性はないが構音時に残存舌と協調して構音に関与していることが明らかとなった.