1992 年 33 巻 1 号 p. 11-21
左中・下側頭回後部病変に伴い重度の漢字書字障害を呈した症例について発症初期からの言語症状を詳細に分析し, その後長期間にわたり言語訓練を行った結果を報告した.症例は62歳, 女性, 右利き, 脳出血.発症後1ヵ月のMRIでは左中・下側頭回後部皮質, 皮質下白質に高信号域が認められた.他の言語機能はほぼ保たれていたのに比し, 漢字の自発書字・書取が重度に障害されていた.小学校1.2年生学習漠字の書取検査では, (1) 正答率は24.4%に過ぎない, (2) 画数増加に伴い正答率が低下する, (3) 誤り方は「目標文字に関係のない誤り」が最も多く, 中でも「部分反応」「新作文字」の率が高い, などが認められた.なお書けない漢字でも意味理解, 正答字の選択はほぼ可能であった.15ヵ月間, 書字訓練を行ったところ, (1) 正答率の改善 (73.3%) , (2) 画数増加に伴い正答率が低下する傾向の減少, (3) 「目標文字に関係のない誤り」の激減, (4) 未訓練文字への般化率が低いままであること, などが得られた.