1993 年 34 巻 2 号 p. 181-188
失語症患者の音読の障害の程度は心理学的検査で評価可能である.しかし, 黙読については, 有効な検査法は今日まで確立されていない.今回, 失語症患者の黙読能力を評価することを目的とし, 電気眼振計を用いて読字の際の眼球運動を記録し, 結果を解析した.
対象は帝京大学病院耳鼻咽喉科で言語訓練を続けた失語症患者5名である.読む文章は童話「北風と太陽」を用い, 読字の条件は黙読, 音読で行った.解析項目は (1) 合計読字時間, (2) 合計サッケード数, (3) 平均注視時間とし, 記録は4chENGを用い, 水平垂直記録で行った.結果は記録紙上より用手法で算出した.
結果, 正常例の眼球運動パターンは記録紙上注視相とサッケード相に分けられ, 両者が交互に繰り返されており, 一連の階段波形となってあらわれた.ブローカタイプの4例は黙読の眼球運動パターンがよく保たれており, ウェルニッケタイプの1例は黙読の眼球運動パターンが最も障害されていた.