1994 年 35 巻 4 号 p. 331-337
健常女児の生後6~18ヵ月とダウン症女児の生後15~28ヵ月 (MA8~18ヵ月) の要求場面での前言語的伝達行為の発達が縦断的に分析された.健常児では, 10ヵ月からリーチングや指さしが増加し, 注視や発声とともに伝達手段を複合的に用いて要求を表現するようになった.また注視と身体活動の増減が交代するトレードオフパターンの傾向がみられた.喃語から, 原初語や言語を用いて要求してゆく経過も認められた.ダウン症児では2歳で初めてリーチングがみられたがその増加は少なかった.発声もMA1歳以降の増加が少なくMA18ヵ月での発声は18ヵ月の健常児の約半数に留っていた.MA18ヵ月時点でも, 伝達手段の複合化はごくわずかであった.要求場面で有意味語が使われたのは, 24ヵ月に母親の呼び掛けに対しての返事と母親の発話の模倣であり, 要求としての言語が有意味語の初めであった健常児とはやや異なっていた.これらから本症例のダウン症児では言語獲得に至る基本的な過程は健常児と類似していたといえるが, 精神年齢の発達に比べ前言語期の伝達行為の発達に顕著な遅れが見出されたといえる.