音声言語医学
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交通外傷による左利き小児失語症における発話の回復過程
―症例報告―
広瀬 明美進藤 美津子加我 君孝田中 美郷
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1995 年 36 巻 2 号 p. 265-273

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抄録

6歳2ヵ月時の交通外傷による脳挫傷後に, 左前頭頭頂側頭葉に広範な梗塞をきたし, 重度の構音失行を伴う失語症を生じた左利きの後天性小児失語症の男児1例について, 発話の回復過程を中心に報告した.本例は, 受傷後約1ヵ月間は緘黙状態を生じ, その後動詞の常套語句を用いて流暢な2~4語発話が可能になった.徐々に発話の音節数が合致し, 母音部分の正しい構音が可能になった.後に子音の構音障害が改善し, 受傷後1年3ヵ月以上経過して, 音声での日常のコミュニケーションが可能になった.発話の回復過程においては構音とプロソディの乖離がみられ, 構音失行が重度であったにもかかわらず, 構音面に先行してプロソディ面に回復が認められた.これは, 本例は左中心前回が比較的保存されていたこと, 左利きの交叉性失語であること, 小児であったこと, 情緒的に退行し, コミュニケーション意欲が高まっていたことなどの要因が関係していると推察された.

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