音声言語医学
Online ISSN : 1884-3646
Print ISSN : 0030-2813
ISSN-L : 0030-2813
前言語期にある精神発達遅滞児への早期言語指導をめぐって
―言語獲得過程における個人差の問題を中心に―
小山 正神土 陽子
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 36 巻 2 号 p. 306-314

詳細
抄録

本稿では, われわれが前言語期から早期言語指導を行い, 発達レベルが同程度であるダウン症女児2例におけるその後の言語発達について, 主に日常生活における語彙獲得のスタイルとその内容, 2語発話に表現される意味関係構造の発達を, 個人差という視点から, 特に指導場面での象徴遊びにみられた認知スタイルとの関連で検討した.
象徴遊びからみられた2例の認知スタイルの違いは, 初期の語獲得の方向性としてある語群の獲得と, 1つの語群でのレパートリーの広がりに影響を与えていると考えられた.すなわち2例のうち, 認知スタイルがholistic, 模倣的と考えられた子どもは, 累積表出語彙50語レベルでは修飾語の獲得が進んでいた.一方, 認知スタイルがanalyticで独創的に象徴遊びを展開する子どもは, holisticなタイプの子どもに比べて1つの語群での内容の広がりがみられていた.また, 語の機能分類では, 累積100語前後の段階で, holisticで模倣的なタイプの子どもは動作語を多く獲得している以外は2例に大きな差が見出せなかった.このような個人差は, 2語発話の意味関係構造の広がりにおいてより明らかとなり, holisticで模倣的なスタイルの子どもは, analyticな子どもに比べ, 2語発話の出現は遅れるものの2語発話で表現される意味関係構造に広がりがみられていた.
以上のような結果を基に, 本稿では, 前言語期における精神発達遅滞児への早期言語指導をめぐって, 個人差を踏まえた発達心理学的立場からの指導の基本的考え方について言及した.

著者関連情報
© 日本音声言語医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top