音声言語医学
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盲・重度脳障害児における音楽的コミュニケーションの発達の長期観察
田中 美郷針谷 しげ子
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1996 年 37 巻 4 号 p. 420-428

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抄録

これまでの報告で, 重度精神遅滞があって生涯言語を獲得できない重度脳障害児には音楽が重要なコミュニケーション手段として残されていることを述べた.今回は, 乳児期から音楽的介入を受けてきた重度精神遅滞を伴う盲・重度脳障害児における音楽的コミュニケーションの発達経過を報告する.
患者は男児で, 生後6ヵ月時われわれの臨床へ紹介されてきた.神経学的および眼科的検査で脳損傷による重度精神遅滞と盲のあることが判明した.0.5, 1, 2および4kHzの純音には100dBでも無反応であった.脳幹反応聴力検査ではクリック105dBnHLで反応が認められたが, 正確な閾値測定は困難であった.そこで, 母親には聴覚的に刺激する意味で歌を歌ってやることを勧めて, 14歳までフォローアップを続けた.
11歳になって, COR聴力検査で本児の聴力は正常であることが判明した.しかし精神発達は依然として1歳以下の段階に留まっていた.情緒的な語を若干発するものの言語は全く獲得していない.しかしながら音楽や歌には1歳半頃より敏感になり, 6歳6ヵ月頃には知っている歌は40にも達した.現在は, 歌を歌ってやると自発的に歌いだすとか, 音楽のリズムに合わせて手をたたく.結論として, われわれは重度脳障害児ないし精神遅滞児の音楽によるコミュニケーションを発達させるには, 早期からの音楽的介入が極めて重要であることを強調したい.

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