1998 年 39 巻 2 号 p. 210-214
漢字書字に特異的な障害をもつ15歳の学習障害児1例を対象とし, 英単語書取り課題について実験的に視覚法と聴覚法との訓練効果の差の検討を行った.訓練第1期のはじめの1週間は聴覚法, 次の1週間は同じ単語にて視覚法, 訓練第2期は聴覚法, 視覚法と第1期とは異なる単語群を用い順序効果を相殺するため訓練法の順番を逆に行った.その結果, (1) べースライン期に比べて短期的に有意に正答率が上昇した. (2) 非訓練語群に比べて訓練語群で有意な正答率の上昇が認められた. (3) 聴覚法が視覚法よりも有意に正答率が上昇した.視覚認知障害を有する本症例は視覚的に提示された英単語での学習が困難な結果, アルファベット綴りを音として学習する方法が迂回路として有効に機能したと考えられた.この改善はLuriaの機能再編成に相当すると思われた.また, 本報告は学習障害に関して科学的データに基づき訓練効果を検討した初めての研究と思われる.