1998 年 39 巻 3 号 p. 279-285
ろう者の音声と感性情報との関係を調べるため, ろうの成人女性3名と健聴の成人女性3名に悲しみ・喜び・怒りの3感情でシナリオを演じてもらい, ろう者の場合は手話に伴ってでてきた音声を, 健聴者の場合は実際に台詞を読んだ時の音声を録音し音響分析にかけた.パラメータとして選んだのは起声部のFO (基本周波数) , FOレンジ, 発話長, FOの動きである.その結果FOレンジとFOの動きは両群で類似した傾向が観察された.またフィルタをかけた両群の音声に対して100名の評価者による聴取実験を行い, おのおのの音声が意図された感情通りに受け取られているかどうかを調べた.聴取実験の結果, 両群の音声とも正確に受け取られる確率が誤って受け取られる確率よりも高かった.音響・聴取両実験結果から, ろう者の音声には感性情報が含まれている可能性が高く, また, FOレンジとFOの動きが感情の動きを最もよく表すパラメータであることが示唆された.