1998 年 39 巻 3 号 p. 329-333
人工内耳術後の言語聴取能と, 電気聴性脳幹反応 (EABR) の閾値 (T) , 振幅勾配 (G) との相関を調べた.その結果術後1ヵ月の時点では, 言語聴取能とGとの間に有意な正の相関がみられた.しかし, 3ヵ月では, 相関はなくなっていた.この結果から, ラセン神経節の残存程度は初期の言語習得に関係する重要な条件と考えられた.
中枢聴覚系における可塑的変化をみるために, 事象関連電位 (P300) と言語聴取能との関係を調べた.P300は二種の異なる周波数の音刺激に対する弁別課題によって得られるもので, 聴覚野における音の認知能力を反映するものと考えられる.この結果, 術後長期を経過した時点においても両者の間に有意な相関がみられた.これらの結果より, 音入れ後早期の聴覚経路におこる電気聴覚への適応には, 内耳のラセン神経節が関与しており, 長期の適応には高次中枢の関与が大きいことが示唆された.