音声言語医学
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聴覚障害を有する重度脳障害児の難聴診断と対策
田中 美郷針谷 しげ子
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1998 年 39 巻 4 号 p. 428-441

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抄録

本論文では聴覚障害および重度脳障害を有する重複障害児の難聴診断ならびにその対策について述べる.この目的のために, 他病院から難聴対策を求めて紹介され, かつ1年以上にわたってフォローアップしてきた高度ないし重度精神遅滞を有する重複障害幼児10例を選んだ.これら10例中4例は脳性麻痺を有し, 2例は視覚障害をも合併していた.聴覚的および神経学的精密検査の結果, 8例は中等度, 高度ないし重度の末梢性難聴を有し, 残り2例中1例は単純ヘルペス脳炎が原因の両側側頭葉損傷による高度な中枢性聴覚障害を有し, 他の1例は脳幹聴覚伝導路の未熟が原因と考えられる一時的難聴と判明した.これらの子供は全員われわれのホーム・トレーニング・プログラムに参加し, 末梢性難聴を有する8例には難聴の程度が推定でき次第補聴器を装用させた.8例とも補聴器の活用は成功したが, その効果の確認には長時間を要し, 特に高度難聴に重度精神遅滞, 脳性麻痺および盲を合併する最重度障害例では15年を要した.今回の長期にわたる追跡研究によって得られた知見は, 補聴器を活用した聴覚的リハビリテーションが長期にわたって忍耐強く続けられるならば, 高度難聴に重度精神遅滞を合併する重複障害児にも, コミュニケーションに役立つ聴覚機能を発達させ得ることを確信させる.

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