音声言語医学
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日常生活における子どもの人形を用いた象徴遊びにみる認知発達とボキャブラリー・スパートに関する研究
小山 正
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1999 年 40 巻 3 号 p. 193-208

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抄録

象徴機能の発達により, 1歳を過ぎた頃には象徴遊びや言語がめざましく発達し, 1歳台後半にボキャブラリースパート (Vocabulary spurt: 以下VSとする) がみられる.VSには子どもの認知発達が大きく反映されている.本研究では, 1語発話期における子どもの認知発達 (特に他者認識の発達) とVSとの関連性を明らかにするため, ひとりの健常児を対象として, 子どもの日常生活における人形を用いた象徴遊びと言語発達を縦断的に観察した.
その結果, 日常生活場面における人形を用いた象徴遊びには, 子どもの日常経験が遊びのテーマとして次第に取り入れられていった.そこには子どもの他者認識の発達が反映され, それとともに表出語彙の獲得に進展がみられた.VSは, 象徴遊びに他者のふりがみられ始めた後に起こった.VSがみられて, 人形を用いた象徴遊びでは, 現実経験の再現遊びが出現し, 遊びのなかでことばによる表示もみられ始め, 自立語2語による2語発話が出現した.人形を用いた象徴遊びは, 母親が子どもに対して日常的に行っている養育行動のふりへとその後変化し, 養育行動のふりでは, 実際に母親が行うように, みたて, マイム, ことばを駆使して遊びを精緻化することがみられた.このような遊びの過程で, 子どもはメタ言語能力を発達させるのではないかと考えられた.
本研究の結果から, (1) 1語発話期における日常的経験の広がりが, 家庭での人形を用いた象徴遊び, 表出語彙の発達に影響していること, (2) 1語発話期にみられるVSには, 他者のふりを行うことにみられる他者認識や表象化能力の発達がかかわっていること, の2点が明らかとなった.

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