音声言語医学
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人工内耳を装着した先天性重度感音難聴幼児2例の聴能・言語発達経過
田中 美郷小寺 一興北 義子斉藤 宏
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1999 年 40 巻 4 号 p. 329-341

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抄録

先天性重度感音難聴幼児2例の人工内耳装着前後の聴覚および言語の発達について詳述する.症例1は130dB以上の聾児 (男) , 補聴器の効果は全く認めなかった.2歳9ヵ月時, われわれのホームトレーニング・プログラムに参加, コミュニケーション・スキルや言語発達を促すために, キュード・スピーチ, 指文字, 手話, ジェスチャーなどのmanual communication手段を, 親子および聾学校教師の間で使うことを認めた.これにより言語発達は促進された.4歳0ヵ月のとき, 右耳に人工内耳 (Nucleus22チャンネル) を装着, しかしその後の聴能の発達はきわめて緩慢, そこで4歳10ヵ月のとき, 本児が知っている文字または単語を書いて示し, それを著者が発音し, かつ本児に模唱させるというトップダウン方式を採用, これにより本児は漸次聴覚的にことばが聞き取れるようになってきた.症例2は女児で, 1歳9ヵ月時重度難聴と診断された.ただちにホームトレーニングに参加, そこで箱形補聴器の処方を受けた.その後聾学校へ紹介され, 聴覚口話法による言語教育を受けた.4歳5ヵ月のとき, 聴力検査で130dB以上のきわめて重度な難聴であるが, ただし左耳の低音域にわずかに残存聴力があることが判明, 5歳6ヵ月のとき右耳に人工内耳を装着.術後の聴能の発達は手術年齢が症例1に比して高いにもかかわらず, 明らかに良好であった.これら2例から, 人工内耳以前に早くから聴覚体験を積んでおくと, 術後の聴能の発達に好結果をもたらすこと, および術前のmanual communicationは注意深く使用すれば, 人工内耳装用後の聴能の発達に必ずしも干渉しないことが示唆された.

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