音声言語医学
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両側小耳症外耳道閉鎖症の成人1例―言語面, 心理面の検討と治療上の問題について―
小島 好雅加我 君孝
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2000 年 41 巻 4 号 p. 330-334

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抄録

高度混合性難聴を有する成人の1例について言語面, 心理面を中心に検討し, 治療に関わる問題について考察した.症例は29歳の男性で, 診断は小耳症, 外耳道閉鎖症, 中耳奇形である.聴力障害で当センター入所となり, 入所時の耳鼻科検診で混合性難聴であることが判明した.平均聴力は右81dB, 左84dB, 1000Hzの気骨導差は右耳55dB, 左耳65dBであった.音声言語面の障害について精査を行ったところ, 読書力偏差値は中学校3年3学期レベルに換算すると偏差値55であった.言語性IQは94, 動作性IQは103, 全検査IQは97であった.構音検査では軟口蓋破裂音や歯~歯茎摩擦音, 硬口蓋歯茎摩擦音, 硬口蓋摩擦音, 硬口蓋歯茎破擦音の口蓋化を認めた.本症例は手術を希望しなかったが, その理由として, 1) 聴力が改善するとこれまでの生活が無駄になるという考え方, 2) 外耳道形成後に生ずる可能性のある耳漏の問題, 3) 聴力の回復を強くは希望していないという点, 4) 症例に聴力が回復した状態を理解してもらうことが困難, といった問題があげられた.先天性聴覚障害とこれに伴う言語面, 心理面の問題をもっ成人例に聴力改善手術の適応を検討する場合, 聴力が改善した後も言語面, 心理面の問題は依然として残存することが予想され, 慎重な対応が必要と考えられた.

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© 日本音声言語医学会
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