2000 年 41 巻 4 号 p. 389-394
声帯溝症に対するvocal rehabilitationは, きわめて困難といわれてきたが, 対症的に声帯の容量を増加させ, 新たな声帯遊離縁を作る方法の一つに声帯内注入術がある.われわれは自家脂肪を注入物質として用い, 良好な結果を得たのでその詳細について報告するとともに, 声帯内脂肪注入術における今後の改良点と声帯の溝に対するアプローチに関する検討も加えた.
2例の声帯溝症症例に対して, 全身麻酔下に, 経皮的自家脂肪注入術を施行し, 術後の音声の評価を行った.術後音声は, 自覚的, 他覚的に改善した.しかし, 注入術は, 注入後の脂肪吸収による効果の持続に問題があり, 移植術も考慮すべきであることや, 溝に対する直接的なアプローチとして, 溝を切徐術し, トラニラストを投与することも, 音声のなお一層の改善に寄与できる実験結果を示した.