2002 年 43 巻 4 号 p. 416-422
強い右利きで広範な左大脳半球損傷にもかかわらず, 明らかな失語症を認めなかった症例を報告した.本例は重度の失書と失行を呈し, 発話の各モダリディにおける感情的変化に乏しい平板なプロソディーが特徴的であった.プロソディー障害は発話面に限局しており, aprosodiaに類似した症状であると考えられた.本例の高次大脳機能の局在に関しては, 書字や高次の行為面, プロソディーは左大脳半球が責任病巣であるのに対し, 音声言語機能は右大脳半球が担っている可能性が考えられた.また, 本例は失語症を認めず重度の失書を呈したことから, 言語機能間でも別々の半球に局在する機能があることを示唆する症例であると思われた.